香りのはなし
香りが思い出を蘇らせる?「プルースト効果」と、わたしの甘い思い出。
2026.09.16
この記事でわかること
香りの不思議な効果には、実はちゃんと名前がついているんです。
きっと誰でも体感したことがある、ふとした香りで昔のことを思い出す、あの感覚。
知らなくても困らないけれど、知るとすこし面白い。そんな内容になっています。
ふとした香りで、忘れていた昔のことを急に思い出したことはありませんか?
わたしにも、もちろんあります。そのひとつが、とても小さかった頃のお話です。
それは幼稚園の頃、お昼寝の時間の前に、先生が「肝油ドロップ」を1粒くれたときのこと。
口に含んだ肝油ドロップは甘くて、とてもいい香り。大好きでした。
大人になってから、ドラッグストアでそのドロップを見つけて、「懐かしい!」と思って買ってみたんです。
そして缶を開けたとき、飛び込んできた香りが、幼稚園の教室に差し込むやさしい太陽の光のイメージと、穏やかな気持ちを思い出させてくれました。
その感覚には、名前がある
ふとした香りで、昔のことを思い出す。この現象には「プルースト効果」という名前がついているそうです。
由来は、フランスの作家マルセル・プルーストが書いた長い小説『失われた時を求めて』。
その中に、大人になった主人公が紅茶に浸したマドレーヌを口にした瞬間、子どもの頃の記憶が一気によみがえる、という有名な場面があるんです。
思い出そうとして思い出したのではなく、ふいに押し寄せてくる現象。アルバムをめくって「懐かしい」と思うのとは違う感覚だそうです。
わたしにとっての肝油ドロップは、たぶんプルーストのマドレーヌと同じものなのだと思います。
どうして香りだけ、こんなに鮮やかなの?
目や耳から入ってきた情報は、脳の中でいったん中継地点を通ってから届くそうです。
ところが香りは、その中継をほとんど通らずに、感情や記憶に関わる場所の近くへ届くと言われています。
だから香りは、「思い出す」というより、その場に引き戻されるような感覚になるのかもしれません。
香りで思い出す記憶は、子どもの頃のものが多い、という研究もあるそうです。わたしの肝油ドロップが幼稚園の記憶なのも、なんだか納得してしまいます。
景色と一緒に、気持ちまでよみがえる
肝油ドロップの缶を開けたとき、教室に差し込む光の景色と一緒に、あのときの穏やかな気持ちまで戻ってきました。
お昼寝の前の、少しとろんとして、安心していた感じ。
香りが感情に近い場所へ届くのだとしたら、景色だけでなく、気持ちまで一緒に戻ってくるのも、自然なことなのかもしれません。
みなさんにも、きっとありますよね。
- 雨の日の香りで、小学校の帰り道を思い出す
- お香の香りで、親戚の家で遊んだ日を思い出す
- 金木犀の香りで、地元の秋祭りを思い出す
思い出しているのは、出来事というより、そのときの自分の気持ちなのだと思います。
いまの香りも、いつか誰かの記憶に
そう考えると、少しうれしくなることがあります。
いま何気なくつけている香水も、いつか誰かにとっての「マドレーヌ」になるかもしれない、ということです。
何年かたって、どこかで同じ香りとすれ違ったとき。「あ、あの人の香りだ」と、今日のことを思い出してくれる人がいるかもしれません。
そして自分自身にとっても。いまの季節につけている香りが、何年後かに、今日の自分を連れて戻ってくる。
付き合っていた人がつけていた香水と、街ですれ違って、つい振り向いてしまった——そんな経験がある人もいると思います。
あの頃の自分の感情が、ふっと蘇ってくる。
だからこそ、大切な人と会う時に選ぶ香りは、少しだけ特別なものにしたいと思うのかもしれませんね。
香りは時間とともに変化していくものでもあります。つけた直後と数時間後で違う表情を見せる仕組みは「トップ・ミドル・ラストノートって何?」に書いています。
まとめ
- 香りで昔を思い出す現象は「プルースト効果」と呼ばれています。
- 由来は小説『失われた時を求めて』の、紅茶に浸したマドレーヌの場面。
- 香りは、感情や記憶に関わる場所の近くへ届くと言われています。
- 景色と一緒に、そのときの気持ちまでよみがえったりします。
- いまつけている香りも、いつか誰かの記憶になるかもしれません。
お昼寝前のあの穏やかな気持ちは、肝油ドロップの甘い香りと一緒に、いまもわたしの中に残っています。
香りのポテンシャル、やっぱりすごいなと思います。